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時計の寿命 2011.11.02改訂


時計の寿命を考える時、高温多湿の日本に住む我々としては、「JISの3気圧防水を満たすか否か」が重要問題 となります。これは、私の知る所では意外と難しいことのようです。機械式腕時計のムーブメントだけなら、純正パーツ(または代用品)の供給があり、技術のある時計師が分解掃除をきちんとやればかなりの年数使えますが、防水性がなくなれば、「腕時計」としては引退で卓上のオモチャとして余生を送るよりありません。「懐中時計」なら話は別で、防水性など最初から度外視ですから19世紀のものでも日差数秒の精度で動く例がザラにあります。
(各社のミニッツリピーター腕時計、セイコーのスプリングドライブ・ソネリなどは、「非防水」のスペックですから、「千万円単位の卓上のオモチャ」と言えなくありません。貧乏人の私にはもとより無縁の世界ですが)

防水時計の代名詞と言えるロレックスの場合、製造中止後30年までの時計なら純正OHすれば新品時の防水性が保障されるようです。これは、純正の外装部品を一定期間保管し、必要があれば再生産するから可能なことです。現行GSも30年間の完全メンテナンス体制を廉価な料金で提供するとのことです。1990年代以降のGSは、モデル寿命が顕著に長いですし(SBGR001は1997年に発売後10年近く現役)、製造終了から30年未満のロレックスや復活以降のGSであれば、現在30歳の人が購入すれば最低でも60歳の定年まで、実際は80歳のヨボヨボ爺さんになるまで、新品当時の性能で使い続けられると考えてよいでしょう。(適正間隔での純正メンテナンスを怠らない前提ですが)。

1990年代以降のIWCやジャガールクルトも、メンテナンス料金はロレやGSより高いですが同様のアフターサービスが期待できそうです。IWCのインヂュニア(ルクルトベース、7750ベース)、Mark12、Mark15、ルクルトのビッグマスターやマスターホームタイムなどは、やはり「ヨボヨボの爺さんになるまで安心して使える時計」でしょう。なお、IWCのポートフィノは「裏蓋ネジ留め・3気圧防水」で竜頭にサカナマークがありますが、OH時期まで使用した個体を見ると、水入りしている例が結構多いようです。ポートフィノのユーザーの方はお気をつけ下さい。

一方、「どんな古い時計でも直せます」といわれる、スイスの高級ブランド、パテックを筆頭にオーデマピゲ、ヴァシュロン、IWCやジャガールクルトがあります。80年代以降に出てきたランゲ、ブレゲ、ブランパンなども、ユーザーは「永久修理対応」を期待しているでしょう。これらについては、「費用と時間を度外視すれば」という、雲上時計のオーナーなら当たり前の前提が省かれています。以前、「祖父の使っていた非防水のバセロンをリシュモンに完全修理依頼したら、半年以上かかり、確かにピカピカになったけど請求書は30数万円。ロレの新品が買えたよ」というボヤキ話を聞いたことがあります。

そして、新品時にJISの3気圧防水を満たしていたと推測されるアンティーク時計についても安心は出来ません。私の経験ですが、1970年代の魚竜頭・スクリューバックのIWCをリシュモンジャパンに完全OH依頼しました。スイス本社送りで期間は半年以上、費用は10万円以上かかりましたが、「古い時計なので、パッキン交換しても防水保証できません」と、魚マークなしの無印竜頭に変わって戻ってきました。ケースは保存状態が良くて新品同様、文字盤も針もピカピカで湿気の侵入した形跡皆無でしたからこの結論はショックでしたが、30年も経つと諸般の事情で防水性の確保が難しいようです。何事も経験とはいえ、高い授業料を払う結果になりました…

そもそも、1960年代以前のスイス製時計の多くはスナップバック・パッキンなしで、新品時から非防水です 一例(1960年代手巻きIWC) 。現在でも、ロレックス・チェリーニの手巻きモデルは「パッキンなし・防塵」仕様だそうです。

日本とは比べ物にならないほど湿度が低い欧州では、「パッキンなし・防塵」仕様でも、腕時計は壊れないわけです。一方、50年代から70年代のスイス製時計でスクリューバックの防水モデルはそれなりに存在します。パテック、ヴァシュロン、オーデマ・ピゲ、ジャガールクルト、IWCなどのメンテナンス体制の整ったブランドであれば、私がしたようにお金と時間を十分にかければスイス本社で完全メンテナンスを受けることが出来ますが、JISの3気圧防水のレベルに達するかはやってみないと分からないでしょう。

クォーツショック以前の腕時計で、メーカーにOHを依頼して「3気圧防水保証」を得られたという体験談をお持ちの方は、ぜひGSフォーラムに情報をお寄せ下さい!私も非常に興味がありますので。

現行品であれば、パテックは「2.5気圧防水」がデフォルトですからIWCのポートフィノ同等の防水性は期待できるでしょう。

ランゲの防水性能は、公式サイト(日本語)のFAQによると
Q: ランゲウォッチには防水機能はありますか?
A: ランゲウォッチにはドイツ工業規格に準拠した"水しぶき防水"という種類の防水機能(日常生活防水)があります。これは雨や手を洗う時など、日常生活におけるさまざまな状況に対応した防水機能です。ただし、泳いだり潜水したりする時に時計を着用することはできません。
とのことで、日本の夏の日常使用でも問題ないはずです。ただ、金属ブレスでの使用はお勧めできませんね。

ジャガールクルトの現行品は「5気圧防水」が基本ですが、裏蓋・ガラス側・竜頭の3箇所にきちんとパッキンが入っているそうです。きちんとメンテしていれば心配はないでしょう。


いずれにしても、防水性というのは「メーカーで純正メンテナンスをして、裏蓋・ガラス側・竜頭の3箇所のパッキンを交換していないといずれはなくなります。私の経験上、パッキンは5年程度で性能劣化が始まるようです。ですので、「3年から5年に一度程度、メーカーに純正オーバーホールを依頼していれば防水性能の低下は心配不要」となります。

ロレックスでもGSでも他ブランドでも「メーカーでの純正オーバーホール」が時計のために最善です。時計を大事になさって下さい。


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